取扱説明書や社内の整備マニュアル・業務マニュアルなど、各種のマニュアルのコンテンツをデータベース化して再利用や多言語展開、規格化、リビジョン管理を容易にすることにより、マニュアル制作の効率と品質を向上させつつコストダウンも図ろうという動きは、さまざまなお客様の社内において、ますます広まっています。
コンテンツをデータベース化する際に最も手軽で便利な方法は、コンテンツをXML形式にすることです。
XMLは、テキストの各段落や文字列にタグを付けた形式です。
- この行は見出し
- ここからここまではリンク
などの情報をテキストとともに格納することができます。
XML形式のファイルは単なるタグ入りテキストですので、これをきちんとしたマニュアルの形へ組版するには、XML組版の工程が必要になります。
マニュアル組版を手がけようとするなら、XML編集の技術や、案件ごとのXML組版開発を求められることは、今後ますます増えてくると考えられます。
文書をXML化する場合、案件ごとに文書の構造と使用可能なタグをあらかじめ策定しておくステップが最初に必要になります。この段階から関与するには、いったん決めたタグで表現できない書式は文書内で許されなくなるという文書規格化の特性を理解し、利用者とそのすり合わせを行いながら策定を行うスキルがあわせて求められます。
こうした開発が可能であれば、「Wordなどのワープロソフトで従来作成されていた社内マニュアルをXML形式へ移行したい」といった導入案件にも自信持って対応が可能になります。
マニュアル組版のXML組版に対応するにはどうするか、以下に代表的な方法をお示しします。
FrameMakerによるXML編集とXML組版
マニュアル制作に強い機能を豊富に備え、この分野で広く使用されているページ組版ソフトであるFrameMakerには、「構造化FrameMaker」インタフェースモードが備わっています。
FrameMakerをこのモードに切り替えると、XML文書をFrameMakerへ取り込んで編集することが可能になります。
FrameMakerは組版ソフトですので、XML文書を読み込んだり編集したりするとリアルタイムに書式が付きます。このXML組版された状態を、そのままプリントしたりPDF化したりすることが可能です。
XML文書の構造や、どのタグにどのような書式をつけるべきかは、案件ごとに異なりますので、FrameMakerでテンプレートファイルを作成しておき、その中にXML文書の構造やタグの書式を定義しておくことができます(この定義をFrameMakerの用語でEDDと呼びます)。すると、XML文書をFrameMakerへ取り込んだり、FrameMaker上で編集したりすると、その定義どおりに、リアルタイムにXML組版されるようになります。
この文書は、FrameMaker形式の文書ファイルとして保存しておくこともできますし、XMLファイルへ書き出すことも可能です。
また、細かい話になりますが、XML文書をFrameMakerへ取り込む際や、FrameMaker文書をXMLへ書き出す際に、技術的な理由から、文書の構造を少し変換したい場合が発生します。その場合には、その変換のルールを「r/wルール」(read/writeルール、読み書きルール)として定義することも可能です。
もしも、FrameMakerの標準のテンプレートやEDD、r/wルールでは対応ができない特殊な要請がある場合には、FrameMakerの「プラグイン」として追加プログラムをあわせて開発することにより、たいていの要請には応えることが可能です。
このようにFrameMakerは、もともとマニュアル組版に強いさまざまな機能を備えていて広く利用されているうえ、XML組版のための編集機能と組版機能をあわせ持っていますので、マニュアル組版にXML組版を導入する際、大きな選択肢の一つとなります。
ですのでFrameMakerによるXML組版の技術を具体的に知り、その開発を行うことができれば、マニュアル組版を業務として行ううえで大きなアドバンテージとなるでしょう。
XML編集ソフトによるXML編集とXSL-FOによるXML組版
XML文書の編集については、比較的軽量な、Oxygen等のXML編集ソフトを使用し、それをきちんと組版する際には、そのソフトとは別のXML組版ソフトを使用する、というアプローチもあります。
XML文書自体は、どのような書式をつけて組版するべきかという情報を持っていませんので、組版する際には毎回、その書式情報を何らかの方法で自動的に付加してやる必要があります。
書式情報付加の方法として広く利用されているのは、とくにページ物を出力する場合には、各タグに対する書式の定義を記述したXSLTという形式のファイルをあらかじめ用意しておき、XML文書とこのXSLTファイルを変換ソフトにかけてXSL-FOという形式のファイルを生成する方法です。
このXSL-FOファイルには、もとのXML文書の内容に加え、それぞれの部分の書式の情報もあわせて記述された状態になっています。
このXSL-FOファイルをXML組版ソフトに読み込ませると、プリントやPDF化が行われます。
ですので、この方式によるXML組版を実現するには、XSL-FOの規格を具体的に知ってXSLTファイルの開発を行う技術力とともに、XML組版ソフトの機能を知ってその設定を記述できる技術力が必要となります。
なお、XSLTで表現できることには限界があるため、XML文書をXSL-FOへ変換してXML組版する際に実現したいことがそれを超えている場合には、専用の変換プログラムを書いてやる必要がある場合もあります。
こうした技術力を持って、このXSL-FOベースの開発・設定を行うことができれば、マニュアル組版を業務として行ううえで大きなアドバンテージとなるでしょう。
どちらの方法が良いのか?
1番目に紹介しましたFrameMakerを利用する方法と、2番目の紹介しましたXSL-FOベースの方法と、どちらが良いかは一概には言えませんが、
- XSLTはもともとウェブから発展した技術であるため、開発上の利点として、ウェブ展開との親和性が若干ある
- XML編集ソフトは一般に、FrameMakerよりは安価であるため、XML編集への設備投資が若干安価に済む
などがこの方法の利点であるといえるかもしれません。
逆にデメリットとしては、
- 編集中にもある程度書式が付いた「プレビュー」を見られるXML編集ソフトもあるが、最終組版状態とまったく同一の見た目というわけではないので、オペレーターがプレビューをたよりに作業をする場合にはやや心もとなさを感じるかもしれない
- 複数のソフトを組み合わせてXML文書を取り回すため、システムが大掛かりになりがちで、全体としてのコストは必ずしも安価には済まないかもしれない
などの点が挙げられるのではないでしょうか。
アプローチ選定の段階から関与するならば、この両方のアプローチの実際を具体的に知ったうえで、案件ごとに最適な解を提示することができる能力が求められることは言うまでもありません。
マニュアル組版にXML組版が効く理由まとめ
挙げたようなXML組版の技術の実際を習得するには、XMLに関する教本にあたったうえで、各ソフトのドキュメンテーションにしたがって、実際に開発を行なってみることが一番です。
マニュアル組版を手がけようとするうえでXML組版に対応するとよい理由は、繰り返しになりますが、ズバリ
「マニュアル組版においてはXML組版の導入が趨勢だから」
ということに尽きるでしょう。
このような大きな重要性を持つ「XML組版」の技術をぜひ活かし、マニュアルDTPに役立ててみてください。